卒論=技術文書の書き方(2)
2.2 論文の構成
2.2.1 全体構成
実験レポートには以下のような基本フォーマットがある。
- 表紙(タイトル、日付、名前)
- 実験の目的、理論、方法、結果、考察
これが工学系卒論の基本構成にも通じている。
ただし次のような違いがある。
実験レポート:書き手がその実験を通じて学んだことを示すために記す
卒論: 書き手が作ったものや測ったことをほかの人に知ってもらう
- タイトル:論文になにが記されているのかを表す重要な一文
- 著者名
- 概要:指定された文字数の範囲で、その論文の内容を簡潔に述べる
卒論は「なぜその研究が必要か」を最初に明確にすることが重要。
2.2.2 タイトル
- 文字数
ポータルサイトのニュースヘッドラインは人がその記事を読むかどうか判断するため、いかに内容をコンパクトにまとめるかが重要になる。
論文のタイトルも同じで、サブタイトルを併用したとしても、多くて50文字以内で論文の内容を表すタイトルをつける。
- タイトルの付け方
論文のタイトルには以下(の2項目以上)を表す
- 対象はなにか
- 目的はなにか
- どのような技術を用いたか
- どのような(測定)結果を得たのか
- 末尾に「~の研究(考察、開発、分析、調査、評価、etc...)」などの修飾語をつけないで考える。
例えば、以下のようなタイトルがあったとする。
[NG例]
・SNSの研究
・表情認識に関する一考察
・エンジン燃焼特性の分析
[OK例]
・SNSにおける投資関連ワードと株価の推移
・表情認識に用いられるアルゴリズムと認識制度
・外気温および気圧によるターボファンエンジンの燃焼特性の変化
NG例では何をやり、どのようなことを対象としたのかが曖昧でわからない。 一方、OK例では何をどうしたのかを記すことによって、それぞれ何ついて研究したのか内容が見えてくる。
- 内容を表しているか
最もふさわしくないタイトルは、内容と乖離したもの。 これを避けるためにも、論文を終わりまで記したら振り返って次のことを確認する。
- タイトルは論文の内容とあっているか
- 結果に示したデータはタイトルにあったものか
-
考察に記した内容はタイトルに関連しているか
-
略語を使わない
タイトルには略語や通称は用いない。 ※例外として、当該分野で常識と言えるほどに一般的な略語は用いることもある。
[NG例]
UAVを用いた作物生育状況計測システム
[OK例]
小型無人航空機を用いた作物生育状況計測システム
- 英文タイトル
前述のとおり、タイトルには「~の研究」などの修飾語を外して考えると述べたが、英語ではこれらの修飾語は不要。
理由は論文のタイトルだから、「研究」と入れなくても研究であることはわかる。
「考察」と入れなくても、なにかを考えた内容が記されているはず。
英文タイトルでは、これら当たり前のことを書かない。
例
~~Development of~~Automatic Control Methods for an Unmanned Aerial Vehicle
2.2.3 名前
漢字で表記する氏名は、名字と名前の間にスペースを入れるか入れないか、入れるなら全角か半角かを確認する。 ローマ字表記は欧米式にfirst nameを先に、半角スペースを入れてfamily nameやlast nameを後に記すのが一般的。
名字だけを大文字で記すフォーマットもあるため、発表しようとする卒論集や学術誌のフォーマットがどうなっているのかを確認する必要がある。
2.2.4 「はじめに」
論文の最初の章。それぞれの分野の慣習があるため、当該分野の論文を参考に指導教員と相談して決める。 ここでは「はじめに」と題して論じる。
- 「はじめに」とは
「はじめに」の目的は、その研究開発がどれだけ役立つものかを読み手に伝えること。 そのため、困っていることはなにか、それをどう解決したいのかを述べる。 そして、論文でなにをどこまで明らかにしたいのか、つまり、研究の目的と論文の目標を示す。
- 研究の必要性
エンジニアリングでは、クライアントの要求を実現するため、あるいは課題を解決するための「アイテム」を開発する。 このアイテムが有用なのか否かを読み手に理解してもらうため、研究の必要性も示す必要がある。
(1)状況と動機を説明する
「なぜ」「なんのために」そのアイテムを開発しようと考えたのか、または完成すれば「どのようなメリットがあるか」の動機(必要性)を記す。 研究は何らかの課題を定義して、その解決のために始める。
(2)研究の位置づけ
思いついたものは誰かがどこかで同じようなことをやっているものであるため、まずは論文を検索し、それらを読んで、参考にできる点がないかを考える。 その論文に記されたアイデアや結果の一部を応用することも構いません。必要なのは、違う点を主張すること。
(3) 参考文献に関して二言
研究の位置づけのためにほかの論文について言及しますが、参考文献と掲げるからには書き手の研究との関連を記す。 その文献を要約し、そのうえで、書き手の研究ではどこを改良するのかを述べる。
- 課題と解決案
アイテムを開発するとき、そのアイテムを用いて解決しようとする課題を定義する。つまり、課題として定義された状況の解決が開発の目的となり、状況を解決するためのアイテムが解決の手段となる。
- なにをどこまで明らかにするのか
つまり、これは論文の目標であり、論文のゴールです。 目標を簡潔かつ具体的に記す。「はじめに」で目標を示して、その達成度合いを「測定結果」で述べる。
- 研究範囲を明確にする
研究をチームで進める場合、研究会や学術誌などへの学外発表では全員の名前を記載するが、卒論は一人の名前であるため、全体のシステムを説明し、それに続けて書き手の担当部分がどこからどこまでかをはっきりわかるように記す。
- 文末表現
論文を記した時点では、それまでの研究で調べたこと、考えたこと、測ったことなどは過去の経験であるため、文末を「~した」や「~であった」とする方法もあるが、論文執筆時点まで続いている状態については「~する」や「~である」とした方が違和感を抱かない。 後者の方が書き手も書きやすく、読み手も読みやすいものになる。
ただし、他の人の研究報告については、書き手の執筆よりも前に書かれたものであるため、「~した」、「~であった」と記す。
- 気を付けること
(1)読み手に推測させない
[NG例]
さまざまな理由から、搬送装置に関する研究開発がいろいろと行われている。
[OK例]
○○(文献番号)は、自動倉庫の棚の間を走行する搬送装置の高速化を目的として、走行中に無接触で充電するシステムを開発した。本研究では、充電時のエネルギー伝送効率の向上を目的として、電力伝送回路の改良を試みる。
上の例を見てわかる通り、NG例では理由(課題)がなにか、それに対してどのような解決策が試みられたのかなど、状況が一切わからない。 そのため、論文では「さまざま」や「いろいろ」のような書き手の言いたいことを推測させる表現を使用しない
(2)「など」を使わない
「など」は例の他にもなにかがあることを示唆する助詞であるため、どんな事柄があるかすべて列挙する。 対処すべき対象をすべて示さなければ、開発したアイテムがどれだけの効果をもたらしたかの議論もできなくなるため使わない。
(3)「課題」・「問題」と言い換えない
[NG例]
製品は、低温特性についての課題を抱えている
[OK例]
冬期には、製品の起動前に余熱を必要とする。
NG例では、温度が低くなった時になんらかの機能低下があることはわかるが、それが何かはわからない。 そのため、OK例では、低下する機能を直接的に記している。 他にも、「欠点」や「弱点」への言い換えもしない これらの言い換えは、読み手になんの情報も提供しないため注意が必要。
(4)「~という(+名詞)」との言い換えを使わない
「課題」や「問題」は、「~という」と結びついて「~という課題」や「~という問題」として頻出する。
[NG例]
高齢化という問題を対処するため・・・
[OK例]
高齢化による労働人口の減少に対応するため・・・
この例では、高齢化が問題ではなく、高齢化が招く状況が対策を要する対象となる。NG例の書き方だと何に対処するのかはっきりわからず、解決を目指す対象を曖昧にしている。 この言い換えは対象を明確化することも限定することもないため、読み手に推測させてしまう要因にもなるため注意が必要。
(5)当たり前のことを記述しない
論文には、その文を削っても読み手が受け取る情報量が変わらない、つまり、情報をもたない文は入れないようにする。 また、「近年」や「今日」などの相対的な時点を示す語は読み手がいつが近年なのか、いつが今日なのかがわからないため使わないようにする。
(6)「先行研究」と記さない
これも読み手になんの情報も提供しないため避ける。 書き手にとっては、所属する研究室の先輩の研究を引き継いだときには「先行研究」の意識があっても、読み手からすると、どの論文が先行研究にあたるのか分からない。 よって誰かの研究を示したい場合は、下記の例のようにして示す。
例
○○(文献番号)は、自動二輪車の乗り心地評価のため、3軸加速度センサを用いて走行時に乗員に加わる加速度を計算した。
(7)「本研究室」と記さない
「本研究室では~」と記してしまうと、なぜその研究を実施しているのか、その研究が発展するとどのような効果が期待できるのかなどの理由や目的が抜け落ちてしまうため記さない。
(8)「(動詞+)~したので報告する」と記さない
「はじめに」の最後の文について、ここで「本稿(本論文)では~を報告する」と結ぶことがある。これには問題がないが、「~をしたので報告する」のように述語が述べられていると冗長になってしまう。下記が実際の例
・~の原因を検討したので報告する
・~の特性測定を行った結果を報告する
これらは
・~の原因を検討した
・~の特性を測定した のように、どちらかの述語を除いた方がすっきりとして読みやすいものになる。
また、前者の書き方だと主語と述語がねじれてしまうため避けるべき。
2.2.5 アイテムの記述
- 「アイテムの記述」とは
ここでは、目標を達成するための解決策を記す。具体的には、アイテムに用いる理論やメカニズム、アルゴリズムなどの特徴について説明する。
- 章のタイトルと構成
(1)単独の研究
開発したハードウェアやソフトウェアの名称を章のタイトルとする。例えば、「自転車自動操縦システム」を開発しているのなら、以下のようにするとよい。
(2)プロジェクトの一部
研究室のプロジェクトとして自動操縦システムを開発し、その一部である「水たまり検出モジュール」を担当しているとする。このとき、担当部分を説明するためにシステム全体の説明が必要あるなら、下の例のように一つの章の中で節を区切って全体から担当部分へと説明するのがよい。
(3)独立したモジュールと考える
プロジェクトの一部として研究開発を遂行したときにも、卒論作成にあたっては、担当部分を独立したモジュールとして、そこだけで説明できないかを考える。
たとえモジュールのプログラムがソフトウェア全体の中の一つの関数であったとしても、単独モジュールとして論文を記せる。 このときには下の例のように、「はじめに」でシステムの中での役割を述べ、2章はモジュールの説明から始めるといい。
- アイテムの記述
(1)「全体から細部型」にしたがって説明する
最初に全体を説明し、それから順を追って細部へと説明する。
(2)要素名称について
例えば何かのパーツについて説明するとき、その部品の名称を手段ではなく、そのものが何をするものなのか、システムの中での役割に基づいた要素名称を付ける。
(3)機器の説明
研究に使用した機器を紹介するときには下記の例のように、機器名に続いて全角の丸かっこを開き、メーカー名と商品名(型番)を記してかっこを閉じる。 他にも以下の点に注意する。
- 日本メーカーは和文表記、欧米メーカーは英文表記とする。
- 株式会社などの会社種別は省略する。
- 英文でも"Co., Ltd."などは原則として省略する。
[NG例]
IEEEカメラ(ABCコーポレーション株式会社、ABC-1234)
[OK例]
IEEEカメラ(ABC Corporation., ABC-1234)
(4)各部分の説明(ハードウェア構成)
読み手には実体図よりも下図のようなブロックダイアグラムの方が構成を把握しやすいでしょう。 一方、実体図にも物理的な配置を示せるメリットがあるので適宜使い分ける。
(5)各部分の説明(ソフトウェア構成)
ソフトウェア構成については、データの流れや動作の順序、ソフトウェア階層のいずれかに沿った順序で説明する。 論文でなにを主題とするかによって、構成や説明内容を考える。
データの流れを示した図
ソフトウェア階層に沿った図
- 説明図
(1)説明図の作り方
以下の点に注意して作成する。
- 図はそれだけを見てもわかるように構成する
- 図の内容は必ず本文中で必ず説明する
- 本文中で説明されている要素が抜け落ちていないか
- 表記を間違えていないか
- 図と本文で異なる表記を用いていないか
(2)注意すべきこと
- 図や写真はすべて自作する
- ネットや書籍からコピーしたものは一部であっても使わない
- フリー素材は自作の一部に使用するだけならOK、図の大部分はNG
(3)図題
- 図には内容を表す図題をつける
- 「開発システム」や「実験装置」などの一般名称を図題とするのは不適切
- 複数の図に同じ図題をつけない
- 図番号と図題は図の下に、表番号と表題は表の上に示す
(4)図の配置
- 原則、説明を記した段落と次の段落の間に図を配置する
- 段落で収まりきらない図は2段をまたぐ幅として、ページの最上部(or最下部)に配置する
- 文末表現
図や表を紹介する文では「図1に~を示す」「~を図1に示す」のように読み手にいま示しているように語る。
- 気を付けること
(1)開発のためのデータ収集(いわゆる予備実験)は「アイテム」の記述に含める
アイテムを設計する段階では、必要となる設計パラメータをデータシートなどから得る場合があるが、予備実験を実施して集めることもある。この予備実験はアイテム開発のためのデータ収集作業であるため、測定したからといって「測定方法」や「測定結果」の章には入れません。この結果を論文に示す必要があるときはアイテムの記述の章で示す。
(2)「予備実験」と記さない
予備実験は実施したとしても「予備実験」とは記さず、どのような確認作業をしたのかを記述する。
(3)初登場の略語は正式名称を記す
長い語が繰り返し登場するときには、適宜略語を用いるが、論文で略語を初登場させる場合は正式名称を示す。
(4)やたらと分割しない
アイテムの記述として一つの章にまとめるべき部分はやたらと分割しないようにする。 分割しすぎると、どこからどこまでが一まとまりになっているのか分からなくなってしまう。
(5)写真に余分なものを入れない
「図○に測定装置を示す」と写真を入れる際、読み手に情報を適切に伝えるためには「アイテムの記述」の末尾とする。 また、写されたものにはそれがなにかの説明(キャプション)を入れる。