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2章 卒論=技術文章の書き方 (4)

2.2.8 考察 (Consideration)

[1]考察とは (What is "Consideration"?) 研究の目的と定めた目標を「はじめに」に記述し、目標の達成を目指した解決策を「アイテムの記述」で説明する。目標の達成度を示すための測定とシミュレーションを計画し、「測定方法」で述べ、得られたデータを「測定結果」で示した。今回は測定やシミュレーションで得た数値に基づいて議論します。

議論について

ここでは、「議論」と記せば、だれかと話し合うような印象を受けるかもしれませんが、辞書によると「議論」とは「互いに自分の説を述べあい、論じあうこと。意見を戦わせること」と、また「その内容」を指します。

しかし、論文では向こうにいる読み手を想定して、彼らを納得させることを目的とするので技術的・理論的な説明を、論理的に展開することは、まさに「論じあうこと」でしょう。

ちなみに、英語の論文ではこの章(考察)を「Discussion」と題します。英語辞書によると、「discussion」には「議論」「討論」のほかに「スピーチや執筆における主題のきちんとした論じ方」との意味もあります。聴衆は目の前にはいませんが、読み手として論文の前にいます。その人たちと「discussion」を交わすつもりで記しましょう。

ちなみに「考察」は辞書によると、

考察」…物事を明らかにするためによく調べて考えること。 (出典:『広辞苑』第七版、岩波書店より抜粋)

です。「明らかにする」ことがこの章の目的です。調査分析あるいは開発の経験から、書き手が明らかにしたことを記します。調査や開発をしなければ書き手にも

[2] 制作や測定の結果を議論する

(1) アイテムの開発を目的とした研究

逆説的ですが、「測定結果」に示した数値で目標を100%達成したのなら「考察」の章は不要です。ところが、そうなっていないでしょう。ですから、なぜ満足できなかったのかの「言い訳」を記します。

  • 言い訳の種類
    • 理論/アイテムの適応限界
    • 設計における弱点、仕様設定の不備、見積もりの甘さ、方針の誤り
    • アイテムの技術的弱点(構造、アルゴリズム、など)、不足(出力不足、能力不足、など)
    • 理論、設計、製作上の見落とし
    • 測定を実施できなかった(データ数の不足)理由

言い訳といっても、技術・科学的に筋のとおった説明が必要です。「こうすればできたはずだ」との根拠のない思いつきは不要です。

たとえば、作業ロボットの安全向上を目的として超音波センサを開発したけれども、検出能力は目標に及ばなかったとします(例2.51【〇な例】)。それに続く考察は、以下のようにできるかもしれません。

例 2.52

考察

センサの使用環境では、人の指の検出が要求される。それぞれの指の太さは15〜20mm程度であるが、開発したセンサは直径20mmの球体を用いて検出できなかった。そのため、検出可能なサイズの球体を用いて性能を評価した。小径の球体を検出できなかった理由は、反射波のレベルが低く、ノイズとの識別ができなかったためであった。

また、センサの取り付けを想定しているアームは、停止までに最大で50 mm 移動する。このため、センサには 100 mm の距離で指を検出できる能力を求めた。開発したセンサはこの距離において、直径 50 mm を超える物体を確実に検出した。掌に対しては十分な検出能力であるが、指を検出可能とするための性能向上が必要である。

ここでは、最初の段落で目的を達成するための条件(指の太さ)と、それだけの性能を確かめる測定をできなかった言い訳を述べています。また、つぎの段落では、目的達成条件を実際的理由(停止までに 50 mm)に基づいて示し、アイテムの実状を述べています。

(2) 調査や分析を目的とした研究

地質や風況の調査、金属やプラスチック材料の成分や物理的特性の測定分析、などを主たる目的とした研究では、測定やシミュレーションで得たデータから、

  • 測定(シミュレーション)結果をもとに議論すること
  • 目的に関連する事項
  • 明らかにできた/できなかったこと
  • 確認できた/できなかったこと
  • ほかの研究報告やアイテムとの比較・検討
  • データに関しての原因や理由(理論に基づく、あるいは論理的説明)

例 2.53 考察のXな例 前提条件

風力発電機の設置場所を検討するために、6 棟ある校舎の屋上で、20○○年△△月□□日から××日間、30 分おきに風速を測定し、例 2.53 の表 3 に示す測定結果を得たとします。

考察 観測した6地点の中で平均風速が最大となったのはD棟屋上であった。B棟とD棟はほかの棟より高い10階建てであったことに加え、測定期間内は西風が多かったため、東にA棟、西にC棟が建つB棟に比べ、東西に建物のないD棟の風速が大きくなったと考えられる。

なんらかの疑問を解き明かすために調査や分析を実施したのですから、その疑問を振り返り、集めたデータがその疑問に対してどのように答えているかを探ります。議論するとき(考察の章)になってから、新たな情報やデータを後出しするのはルール違反です。

「考察」で検討するデータは、すべて「測定結果」の章までに示します。校舎の高さ情報も、もしかすると「測定方法」の章には記されていなかったかもしれません。書き手にとって当たり前のことは、記述から抜けがちです。しかし、読み手にとっては初めての情報かもしれません。

考察を記した後、振り返って情報やデータの提示箇所を確認します。

また、研究の遂行上、結果を受けて追加の測定をすることもあります。そのようなときにも、「順序型」として記す必要はありません。ですから、例 2.53 に続けて、

例 2.54 【×な例】

そこで、南風の日に風速測定を実施した。結果は、南北に建物のないB棟の風速が、北にC棟、南にE棟の建つD棟よりも高い値を示した。

のように、新たな「測定」とその「結果」を考察で述べることはしません。一つの論文は、目的にかかわる一連の研究について述べるものです。追加した測定があったとしても、整理して「測定方法」と「測定結果」で記します。

(3) 結果からの展望

測定結果で得たデータに関する議論の後には、そこから導き出される展望を議論します。

  • 結果から導き出される展望例
  • ほかの研究/アイテムと比較して優れている点/不十分な点
  • ほかの研究/アイテムへの適応・応用可能性
  • 想定していなかった効用など
  • アイテムの設計・製作に役立つノウハウ

[3] 気をつけること

(1) 論文のタイトルに関連しないことを議論しない 論文の「タイトル」に関連しない議論をみかけます。あくまでもタイトルに沿った内容を展開してください。

(2) 製作や測定していないことは議論しない 考察では、測定やシミュレーションで得た結果に対して議論します。結果に示されていない特性や性質に関する議論はしません。

(3) 結果の数値を繰り返さない 考察を記すときには、データを繰り返し述べません。代表的数値や分析、特性や応答だけを言及して、どのデータに対しての議論なのかをわかるようにして検討や分析を加えます。

(4) 主観的・感情的表現を用いない 考察に限らず論文では、定量的、客観的表現を心がけます。

大小は主観的表現:「大きく」「高く」などは主観的表現です。

例 2.57 【×な例】

  • 演算時間を大きく短縮した。
  • 精度を高くした。

と記されていても、書き手が何秒(あるいは何ms, 何分, など)からを「大きく」(それに時間短縮なら「大きく」ではなく「大幅に」でしょう)、あるいは何μm(あるいは何ms, 何%, など)からを「高く」と感じているのか読み手にはわかりません。定常状態(平均)がどのくらいかという認識によって、大きく/小さく、高く/低く、などの感覚は、人それぞれ大きく異なります。

例 2.57 【〇な例】

  • 〇〇法を用いたときよりも 20 % 演算時間を短縮させた。
  • プログラム導入前より位置精度を 5 % 向上させた。

のように、定量的表現を心がけましょう。

「よい/悪い」も主観的表現:「よくなった/悪くなった」「優れた/劣った」との主観的表現もなにも伝えません。

例 2.58 【×な例】

□□方式より応答がよくなった。

と記されていても、なにがどうなれば「よい/悪い」かはわかりません。定量的表現としましょう。

例 2.58 【〇な例】

□□方式より目標値からの偏差を ±2 mm 減少させた。

感情的表現を使わない: 無意識に感情的表現を用いていることがあります。

例 2.59 【×な例】

  • 10 %もエネルギー変換効率を向上させた。
  • 20 %しか演算時間は短縮しなかった。
  • 偏差が 50°を超えてしまった。

などの記載です。

「も」は予期していた程度を上回ったとの、「しか」は否定表現と組み合わせて「少ない」との、「しなかった」は「できなかった」との、「超えてしまった」は「やってしまった」のように失敗したとの、書き手の意識を表します。たとえ失敗と感じたとしても、論文に感情的表現は不要です。

「思う」「感じる」と記さない: 「〜と思う」や「〜と感じる」との表記は、数量的データを伴わない書き手の推測を表します。

例 2.60 【×な例】 試作した回路は安定に動作すると思う。 開発したロボットをかっこいいと感じる。

論文はブログでも小説でも感想文でもありません。憶測や想像を記すのではなく、データに基づいた論理的な推論に基づいて議論します。

「非常に」を使わない:「非常に」も主観的表現です。たとえば、

例 2.61 【×な例】

〇〇法は非常に有用な手段である。

は、意味をなさない表現です。辞書には、

「非常」… ①さしせまった事態。②程度がはなはだしいようす。

(出典:『学研 現代新国語辞典』改訂第六版, 学研 (Gakken) より抜粋)

と記されています。「さしせまった事態」ではないでしょうから「はなはだしい」と書き手が思っているのでしょう。しかし、これは主観的表現です。

同じような例として「わりと」と「とても」と書かれているものもみます。「わりと有用」あるいは「とても有用」となっていても、読み手にはわかりません。強調したいのであれば、比較対象を示して、

例 2.61 【〇な例】

〇〇法を用いた誤り訂正アルゴリズムは△△法を用いた場合と比べて、外乱から受ける影響を 10 %低減させた。

のように、数量的に程度を記しましょう。


2.2.9 「おわりに」 / 「まとめ」

(1) 入れても入れなくてもよい 「おわりに」あるいは「まとめ」と題する最終章は、用いても用いなくてもどちらでもかまいません。二段組み4ページ以上くらいの長い論文では、論文末で振り返ってまとめ、論点を整理するのもよいでしょう。一方、3ページ以下くらいの短い論文では、必要な事柄を「考察」の章で論じ終えたほうがまとまるでしょう。

入れるか入れないかは研究分野によって慣習が異なりますので、指導教員と相談して決めてください。

この章を入れるときには、最初の章名と以下のように対応させます。 - はじめに ― おわりに / まとめ - 緒言 ― 結言 - まえがき ― あとがき / まとめ - 背景 ― 今後の展望

(2) 「おわりに/結言/あとがき/今後の展望」を入れるとき 測定あるいはシミュレーションの結果から明らかにしたこと、研究より導かれた今後の展望を述べます。研究目的を達成するために必要であるが、論文の中では検討できなかった項目を記すこともあります。

たとえば超音波センサの開発例では、以下のように記すことができるかもしれません。

例 2.62

6. おわりに

開発した超音波センサは、超音波音響レンズの採用によって正面から30°の方向まで検出エリアを拡大した。ところが、最小物体検出能力を高めることには成功していない。その原因は受信信号のレベルが低いためであり、音響レンズでの損失を減らす工夫が望まれる。

「おわりに」では、「考察」で記した内容を繰り返さないように注意します。

(3) 「まとめ」を入れるとき 論文の冒頭に "Abstract" や「要約」「摘要」を記すときには、「まとめ」は入れないほうがよいでしょう。なぜなら、「まとめ」は論文の「要約」であり、同じことの繰り返しになるからです。

「まとめ」では、研究の目的・論文の目標、アイテムの記述、測定結果、および考察(入れなくてもよい)を、それぞれ1〜2文で記します。言い換えれば、論文のエッセンスを数行に要約します。それはそのまま「要約」であり、英訳すれば "Abstract" になります。

例 2.63

6. まとめ

作業ロボットの安全性向上を目的として、障害物検出用超音波センサを開発した。センサには検出エリアを広げるため、超音波音響レンズを設計して取り付けた。センサは、正面軸上および正面軸から30°の方向に距離100 mmで配置した直径50 mmの球体を検出可能であった。しかし、直径40 mmの球体では、垂直30°の方向で検出できなかった。使用環境では人の指を検出できることが求められるため、最小物体検出能力の向上を必要とする。

章のタイトルを「まとめ」としておきながら、「今後の展望」を書いたようなものも散見します。「まとめ」と題したときには、論文の内容をまとめます。

2.2.10 謝辞

指導や協力をいただいた方に謝意を表します。順序は、学外から学内の方とします。謝意を表す方をフルネームで、学外者は学位または敬称を、学内者は職名を、学生は専攻と学年を添えて記します。学外から補助金を受けたときにも、その旨を記します。

例 2.64

謝辞 はじめに、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導とご助力を賜りました明治大学大学院理工学研究科の井口幸洋教授、そして指導教員である宮島敬明先生に心より感謝申し上げます。学部入学時より長きにわたり、学問のみならず研究に取り組む姿勢についてもご指導いただき、深く御礼申し上げます。また、情報科学という分野に興味を持ち、今後もこの道を歩んでいこうと決意するに至ったのは、井口教授をはじめとする皆様の温かいご支援と励ましがあったからにほかなりません。この場をお借りして、改めて厚く御礼申し上げます。そして、宮島先生には、特に深い感謝の意を表したいと存じます。ゼミの第1期生として、その発展に携わる機会を得られたことは、私にとってかけがえのない経験となりました。ゼミ内定時、私が決断を迷い、ぎりぎりで入ることを決めたことが、まるで昨日のことのように思い出されます。振り返れば、それこそが私の人生における大きな分岐点であったことは、今さら言うまでもありません。もしあのとき別の道を選んでいたならば、私はこれほどまでにGPU という分野に魅了されることも、素晴らしい仲間や充実した指導に恵まれることもなかったでしょう。宮島先生のご指導のもとで研究に励むことができたこと、そして多くの学びを得られたことに、心より感謝申し上げます。最後に、先生のさらなるご活躍と、研究室の一層の発展をお祈り申し上げます。 (出典:粒子法ソフトウェア DualSPHysics における粒子相互作用計算の GPU 向け最適化)

2.2.11 参考文献

(1) 文献番号のつけ方 論文や書籍などを参照したときには、著者の名字に続けて参照した対象を記し、半角上付き数字で文献番号を示します。文献番号は、著者の名字に続けて、または、参考にしたことを述べた直後、あるいは、句読点の直前に示します。

例 2.65

【①】 リンカーンら⁽¹⁾は、赤外線を用いた障害物検出法を報告した。 【②】 リンカーンらは、赤外線を用いた障害物検出法を報告⁽¹⁾した。 【③】 リンカーンらは、赤外線を用いた障害物検出法を報告した⁽¹⁾。

論文の中では、いずれかのスタイルで統一してください。

例 2.65 に示したように著者には敬称を用いません。「リンカーン大統領」や「××教授」「□□さん」などとはしません。

文献に記されているとおりに、和文書から参照したときには外国人名もカタカナで、欧文誌を参照したときには日本人名もアルファベットで記します。アルファベットで記された日本(中国、韓国)人著者の漢字表記を知っているとしても、印刷されたとおりに記します。

書籍を参考とするときにも、原則として著者名を記します。

例 2.66

【×な例】

『プログラミング言語C--』⁽²⁾に記されている検出アルゴリズムに、物体移動時の予測を加えた。

【〇な例】

山縣の検出アルゴリズム⁽²⁾に、物体移動時の予測を加えた。

ここで、例 2.66【〇な例】では「山縣」のように旧字体が用いられていますが、「山県」と常用漢字にはしないで、文献に示されたとおりに記します。

著者が示されない統計報告やデータシートなどを参考としたときには、

例 2.67

計測回路は ABC-1234 データシート⁽³⁾を参考に設計した。

のように資料名を示して文献番号を記します。

文献番号の示し方は、両カッコのほか、右カッコだけ、カッコなし、など卒業論文や学術誌によって異なりますので確認してください。また、本文中の文献番号と参考文献リストのカッコのスタイルは対応させます。本文中が右カッコだけなら、参考文献リストもそれに合わせます。いずれの場合も参照番号およびカッコは半角で記載します。

例 2.68

【①】 Churchill ら⁽⁴⁾はレーザ光による障害物検出法を提案した。 【②】 Churchill ら⁴⁾はレーザ光による障害物検出法を提案した。 【③】 Churchill ら⁴ はレーザ光による障害物検出法を提案した。

(2) 参考文献リスト 論文の最後に、参考文献リストを示します。例2.65【①】、2.66【〇な例】、2.67、2.68【①】の参考文献例を例2.69に示します。

①学術誌からの参照 著者名, タイトル, 掲載誌名, 巻(号), pp. 開始ページ-終了ページ, 発行年を示します。複数著者のとき本文では「筆頭著者の名字+ら」と略しましたが、参考文献リストでは原則として全員を記します。ただし人数が多いときには「筆頭著者名+ほか」として略すこともあります。

②書籍からの参照 著者名, タイトル(書籍の中の章タイトル), 編集者名 [編]^†, 書籍名, pp. 開始ページ-終了ページ, 発行年, を記載します。ここでは参考元が1ページであったときの例として "p." としました。"p." は "page" の略、"pp." は "pages" の略です。

③Webページからの参照 企業名(株式会社などの種類は略す), タイトル, URLとそのページを参照した年月日を示します。URLが1行で収まらないときには、改行して示します。

④欧文誌からの参照 欧文で記します。欧文ではカンマとピリオドは半角で記して、その後に半角スペースを入れます。著者名は、原則として first name のイニシャル、ピリオド、last name を記しますが、first name を略さないで示すフォーマットもあります。複数著者を略すときには、"et al."^†とします。また、学術誌名の "Journal of" は "J." と略します。

例 2.69

参考文献

  1. エイブラハム・リンカーンほか, 赤外線を用いた近接障害物検出方法, 日本なんでもかんでも学会誌, 123(4), pp. 56-78, 1987
  2. 山縣有朋, 強化学習による障害物検出アルゴリズム, 日本なんでも応用学会編, プログラミング言語 C--, ロナコ出版, p. 90, 2001
  3. ABC 電子, ABC-1234 データシート, www.abc.com/def/ghk.html, 参照日:2019.2.30
  4. W. Churchill, et al., An obstacle detection sensor using a laser diode, J. Ultra-Super Sensors, 56(7), pp. 56-78, 1999

著者名の後をコロンで区切る、「巻(号)」でなくて「巻-号」と示す、発行年の後にピリオドを入れる、など参考文献のフォーマットは論文誌によって異なります。よく確認しましょう。

(3) 参照してよいもの/そうでないもの 参考文献とできる資料は、公表されたものに限ります。未発表の論文や、研究室内でしか閲覧できないデータは参考文献にはできません。また、資料は信頼できる情報源からのものに限ります。信頼できる情報源を以下に示します。

①論文 学術誌は英文、和文を問わず参考文献にできます。研究会や国際会議抄録も参考文献とできますが、その内容は論文として公表されているかもしれません。著者名より検索して、あれば論文のほうを参考文献とします。

②Web ページ 政府機関、UNESCO などの国連機関、OECD などの国際団体、新聞社・通信社が発表する統計などは信頼できる数値です。電子情報技術産業協会などの業界団体、当該分野のメーカーの Web ページなどの技術情報も参考にできます。

Wikipedia は便利ですが、まちがった情報も少なからず存在していますので使えません。幸いなことに多くの Wikipedia ページは編集方針 にしたがって出典を明記しています。ですから、これらの原典が信頼のおけるものであれば、それを読んで参考文献とします。Wikipedia ページをみただけで、読まない原典を参考文献とするのはルール違反です。

個人のブログ、まとめサイト、質問サイトなどは参考文献とはしません。情報の信憑性が保証されないからです。

③書籍・技術情報誌・データシート 当該分野のエンジニアや研究者を対象として論文を記すのですから、大学学部あるいは高専教科書レベルの書籍は参考文献とはしません。大学院レベルの書籍、その分野の技術情報誌、使用したアイテムのデータシート、アプリケーションマニュアルなどの対象者が詳しくないと思われる情報については参考文献に加えるようにします。

また、研究分野以外の分野、たとえば農業や医療に関係する論文を記すときには、その分野では学部レベルの知識であっても工学者には知られていないこともあります。このようなときには、読み手の理解を助けるために参考文献に加えることもあります。

2.2.12 概要・Abstract

概要(摘要、要旨)は、論文の本編の前に位置しますが、記すのは最後とします。なぜなら概要は、できあがった論文の最も重要な点を記すものだからです。

構成は以下のようにします。

概要の構成

  • 研究をとりまく状況あるいは必要性, およびそれに対する解決法(どのようなアイテムを作るか)、あるいはなにを明らかにするのか(1〜2文)
  • アイテムの説明(1〜3文)
  • アイテムのパフォーマンス(結果、特徴)(1〜2文)

として、「はじめに」の章をほとんどそのまま転記したものをみかけますが、それではアイテムのアピールとなりません。アイテムとその代表的パフォーマンスを示して、読み手に本編を読もうという気にさせるのが概要の役割です。

概要には図や表、式は用いません。文字だけで記します。また、参考文献も入れません。文字数が規定されているときは、範囲内に収めます。

例 2.70

概要

本書は、稚拙あるいはあいまいな記述を予防し、執筆者の文章作成にかかわる労力を低減し、よりよい卒論を完成することを目的として執筆した。1章では論理的な日本語記述のための要点を概説し、2章では論文として記述すべき内容を説明した。ABC大学BCD学科における調査では、本書の学習によって論文のミスを減少できることが示唆された。

Abstract も同様の構成とします。

例 2.71

Abstract

The purpose of this book is to finish a well described graduation thesis for preventing clumsy sentences and ambiguous expressions while reducing the writer's labor of composition. This book describes the essentials of Japanese logical writing in Chapter 1, and the contents of engineering writing in Chapter 2. A survey at Department BCD of ABC University indicated that the errors in the papers were decreased by studying this book.

輪講まとめ

①考察 考察とは研究を明らかにすること。考察の章で情報を後出ししない。客観的な言葉を使う(主観的な言葉を使わない)。

②まとめ,おわりに 書かなくてもいい。書くなら今後の展望などを書く。

③謝辞 お金を出してくれた人や宮島さんに感謝の言葉を書く。

④参考文献 文献番号の付け方にルールがいつくかあり、どれでもいいが統一する。参考文献にできるもの、できないもの(wiki,知恵袋,ブログ)があるので注意する。

⑤概要 読み手に見ようという興味を持たせるためのもの。